Project Description
#移住 #インタビュー
家族3人での瀬戸田暮らし。移住して地域に溶け込む秘訣とは。
ピザ屋の店主 こっしーさん
こっしーさん
・東京からの移住者
・子育て家族
・島で唯一のピザ屋さんを経営。
しおまち商店街から自転車を走らせ約3分。腰越さん(以下、こっしーさん)が営む「pizzeria&bar RIN」の看板が見えてきた。赤い立て看板と、カッティングボードの「OPEN」の文字が営業中の印。店内へ入ると、お店の奥には赤いタイルが印象的なピザ窯が、そしてカウンターには店主のこっしーさんの姿があった。
瀬戸田では唯一のピザ屋さん。
仕事帰りの農家さんや、地元の小学生など老若男女に愛されるお店となり、現在に至るまで一体どのような物語があるのだろうか。
「島に暮らしたい」奥さんの言葉
もともと東京で働いていたこっしーさん。フレンチ、イタリアンのシェフを経て、スペインバルで料理長を務めていた。
「2020年の東京オリンピックに向けて、僕は東京で仕事をしたいという思いがあったんだけど、奥さんはずっと『島で暮らしたい』という思いがあった。」その後東京で仕事をするうちに、住むのは東京じゃなくてもいいのではないかと思い始め「移住」という文字が浮かんできたという。
「料理ってその土地にあるもので作れる。そこにあるもので、人を呼び込むことができるから料理でやっていこうと思った。」
その頃ちょうどお子さんが生まれて半年ほど経っていたこともあり、当時の職場に「辞めます」と宣言。退職までに3か月ほどかかり、ようやく2015年の12月末に東京を離れることとなった。その後、移住先探しの旅へ。最初は知り合いが住む沖縄へ飛んだ。滞在は1週間。
「沖縄はね、物価が高くて暮らしにくかった。外食は高いから自炊しなきゃと思ったんだけど、野菜を本土から持ってくるので、値段が高いんだよね。」
沖縄の物価の高さに、移住は断念。
続いて、奄美へ2日間程滞在。が、学校の生徒が6人程しかいないと知り、これはだめだと思ったそうだ。
レモンが繋いだ瀬戸田との縁
沖縄、奄美の「移住体験」を経て東京に戻ったとき、「奥さんの地元・尾道のお義父さんから『しまなみ海道はどう?』と。じゃあしまなみ海道へ行ってみようかということで、車を走らせて向かった。」
しかし、土地勘がないため全然知らない地名ばかり。そんな中で目にしたのが『瀬戸田へはこちら』という看板だった。元々、仕事柄食べ物の産地をチェックすることの多かったこっしーさん。「仕事で『瀬戸田レモン』を知っていたから、あ!瀬戸田じゃん!やっと聞き覚えのある名前だ!と思って、すぐに車を降りたよね。」
そのまま瀬戸田をぐるっと一周し、海を始めとした瀬戸田の風景を見て好感触を抱いた。”飲食業をしたい”という当初の思いと、”瀬戸田レモン”がフックとなり、本格的に瀬戸田への移住を検討し始めた。
「自分の武器は、料理。レモンって、料理にもドリンクにもデザートにもできる万能な食べ物だから、武器の中でレモンは活かせそうだと思った。」
飲食の中でも何をやろうか、奥さんとの話し合いを重ね、万人受けする「ピザ」に絞った。そして、他の産地と比べて糖度が高い瀬戸田レモンや地元の野菜等を使用し、ピザ作りを重ねてきた。ミシュランガイドにも掲載されたお店の看板メニュー、瀬戸田レモンを使用したリモーネは絶品だ。
子育てをするにはもってこいの場所
こっしーさんには今年で9歳になる娘さんがいらっしゃる。子育て真っ最中に移住されてきた経験から、特に子育てについて瀬戸田に抱く印象を伺ってみた。
「瀬戸田はとても暮らしやすい場所。人も優しく、自然も豊か。子育てをするにはもってこいの場所だと思う。」という。
しかし一方で、「瀬戸田には病院があまりない。総合的な町医者はあるけれど、小児科や耳鼻科とか専門的なお医者さんがあまりいない。瀬戸田へは直感を頼りに、あまり調べずに来てしまったから少し大変だと思ったかな。」と島ならではの苦労も見えてきた。
そんななかでも「病院がないなら、風邪を引かなければよい!」と置かれている状況の中でどうしていくかを考える、島の生活における心構えを教えていただいた。
また、学校に関しては「小中高1校ずつ、というのは逆に嬉しかった。島の中で仲良くなって同級生同士の関係性が深まるから。」と、「学校が少ない」という一見ネガティブな状況を、ポジティブに捉えている様子が伺えた。
あったらいいな、こんな場所
こっしーさんは、近年の移住ブームで瀬戸田の盛り上がりの契機を感じつつも、「瀬戸田は余っている土地が多い。空き家や耕作放棄地が増加しているから、それらを有効活用できれば」と、瀬戸田の土地の使い方について問題視されていた。
シャッターが閉まっているお店は奥に人が住んでいることが多く、人が借りたくても借りられない。「需要はあるけれど、借りられない」という問題があるそうだ。例えば、そのような家を有効活用するために高齢者が安く気軽に住める施設をつくるなど、家主が家を手放し、活用を考える人が入りやすくなる仕組みが必要だという。
商店街にどのようなお店ができたらよいか?という質問に対しては、
商店街のまん中に休憩所・フリースペースを作り、事業者と観光客、地元の人の交流の場や情報交換の場所を作ったり、一人暮らし用の住まいや宿泊施設を増やしたりと、人が気軽に来れる場所を増やしてほしいと仰っていた。
一方で、「レモンがあるから繋がっていく。レモンは添え物から主役に変わりつつある。今後レモンの二次産業が伸びてくるのでは」とレモンに対するポテンシャルも感じていた。
移住者へのメッセージ
最後に、こっしーさんと同じように瀬戸田での子育てを考える方に向けて、メッセージを伺った。
「瀬戸田は住みやすい場所。地元の人にどう見られるか、と気にして閉じこもっているより、オープンマインドで島の人と接した方がよいと思う。
『○○から来ました』『○○をやります』と自分の意思を表明してみると、島の人は認知してくれやすく、気軽に協力してくれる。」
瀬戸田の魅力はなんといっても人が優しいところだという。
「人情」が人を惹きつけるのがこのまちだ。
「移住してくる人にとって、何かのきっかけ、とっかかりになる場所が瀬戸田であればいいな。だから、移住をあまり重苦しく考えないでほしい。」とインタビューを締めくくる。
割烹着姿を少し恥ずかしがりながら、ピザを食べに来るおばあちゃん。「こんなんで来てええんか」と仕事終わりに長靴を履いて来る農家さん。造船の仕事を終えた青年。仕事の合間にコーヒーを飲みにやって来る宿のスタッフ。「生ハムが好きなの」とちょっと大人な小学生。
たくさんの人がこっしーさんのピザを食べに、そしてこっしーさんに会いにやってくる。まさに、ここから人との輪が広がっていく。店名の由来でもある輪(rin)のある場所として、これからも瀬戸田に集う人々を繋いでいくことだろう。
(2022.2.20 インタビュー)編集:志賀まみ