地域とともにつくる、新しい学び
2025年12月21日(日)、瀬戸田市民会館で「しおまちとワークショップ きょういく編」の第3回が開かれた。当日は前回と同様、14:00〜17:00の3時間にわたり、前半はアドバイザーによる講演、後半は立案者の事業プランを参加者とともに磨き上げていくワークショップという、二部構成のプログラムが実施された。
今回、アドバイザーとして登壇したのは、大崎上島にある広島県立広島叡智学園中学校・高等学校(HiGA)で、未来創造科主任を務める南迫勝彦さん。
学びの島へと変化を続ける大崎上島の現場で、教育の実践に向き合ってきた南迫さん。この日の講演では、「教育の中身をどうアップデートしていくのか」、そして「学びが地域と結びついたとき、何が起こりうるのか」というテーマについて語られた。
派手な成功事例を並べるのではなく、日々の実践や迷い、試行錯誤の中から紡がれた言葉の数々。それは、瀬戸田という場所に眠る可能性に、あらためて気づかせてくれるような講演となった。
広島叡智学園が実践する
新しい時代の学び

南迫さんが所属する広島県立広島叡智学園中学校・高等学校(以下、HiGA)は、瀬戸内海に浮かぶ大崎上島にある全寮制の県立中高一貫校だ。2019年4月に開校し、日本では数少ない公立の国際バカロレア(IB)認定校として、国内外から注目を集めている。
1学年40人という少人数制、1コマ90分・1日4時間という独自の時間割。知識を効率よく詰め込むための設計ではなく、一つの問いにじっくり向き合うための余白が、あらかじめ用意された学校でもある。
しかし、HiGAの特徴は制度や実績だけでは語りきれない。南迫さんの話から浮かび上がってきたのは、学びの中身そのものを問い続ける姿勢だった。
知識ではなく、
「概念」から始まる学び
HiGAの授業の軸にあるのが、「概念理解」と呼ばれる考え方だ。これは、単発の知識や正解を覚えることを目的とせず、その背後にある普遍的な構造や関係性を捉えることを重視する学び方である。

たとえば社会科では、「自然環境と社会環境はどのように関係し、地域の違いを生み出しているのか」といった大きな問いがまず投げかけられる。
生徒たちは、統計データや文献を調べ、フィールドに出て人の話を聞き、自分なりに仮説を立てていく。そして、Inquiry(問い)→ Survey(調査)→ Analysis(分析)→ Presentation(表現)という循環を通して、学びを深めていく。
南迫さんは、このプロセスについて「大事なのは、正解にたどり着くことではなく、問いを持ち続ける力を育てること」だと語った。

HiGAを象徴する取り組みのひとつが、「未来創造科」と呼ばれる総合的な学習の時間だ。ここでは「Well-being(幸せ)」をテーマに、生徒たちが半年以上かけて探究を行う。
自分にとっての幸せとは何か。地域の人にとっての幸せとは何か。自然環境や社会の構造は、その幸せにどう影響しているのか。
インタビューや文献調査を重ね、時には抽象的な表現や制作物として発表する。学びはテストで完結するものではなく、生き方そのものと結びついていく。
南迫さん自身も、南極観測隊に同行し、極限環境におけるWell-beingをテーマに調査を行い、その経験をリアルタイムで生徒たちに共有してきた。

HiGAのもうひとつの大きな特徴は、地域との関係性にある。学校は島の中にあるのではなく、島全体をキャンパスとして捉えている。
島の住民が生徒の成長を見守る「島親制度」、高齢者へのデジタルサポート、地域の魅力を英語で発信する取り組み。
これらはすべて、地域貢献という言葉で片付けられるものではない。生徒にとっては学びの実践の場であり、地域にとっては新しい視点や関係性が生まれるきっかけになっている。
瀬戸田として学べること
今回のワークショップを通して見えてきたのは、教育は特別な施設や制度がなければ始められないものではない、ということだ。
地域の暮らしそのものを学びの素材として捉え、人と人が問いを共有し、対話を重ねていく。その積み重ねが、「学びの場」を育てていく。
瀬戸田においても、学校、地域、外から来る人、それぞれが立場を超えて関わることで、ここにしかない学びのかたちが立ち上がっていく可能性がある。南迫さんの講演は、その具体像を思い描くための、大切なヒントを残してくれた時間だった。

学びの構想が、動きはじめる
ワークショップ後半では、4つの事業ごとに分かれ、より具体的なプランへと磨き上げる時間が設けられた。前半の講演で投げかけられた「学びの中身をどう更新するか」「地域と学びはどう結びつきうるのか」という問いを受け、それぞれの構想は一段階、現実に近づいていった。
地域の未来を担う人を育てる——奥本さんの取り組み

奥本さんのチームが描いたのは、地域の未来を担う人材を育てるための、長期的な育成プログラムだ。単なる語学留学ではなく、「自立心」と「経営感覚」を育むことを軸に、瀬戸田在住の中学生・高校生を対象とした2年間のロードマップが提示された。
渡航先はオーストラリア。現地では語学だけでなく、経営や商品開発、イベント参加などを通して、実社会の動きを体感することを想定している。1年目は英語学習や事業・渡航計画の策定、現地調査といった基礎固めの期間。2年目には、生徒自身が資金調達に挑む。商店街でのアルバイトを通じて渡航費を稼ぎ、労働と対価の関係を実体験として学ぶ設計だ。
こうした経験を経た参加者がレポート発表を行うことで、下の世代に憧れが連鎖していく。10年、20年という時間軸で、地域のリーダー層を厚くしていく循環が描かれた。
アートを通して、誇りを育てる——田中さんの構想

田中さんのチームが取り組むのは、アートレジデンスを軸にした共創プロジェクトだ。アーティストを呼んで作品を展示して終わり、ではない。制作のプロセスそのものに地域住民が関わり、島とアーティストが一緒に作品を育てていく点に特徴がある。
瀬戸田港周辺を展示のハブとし、制作を支える地域制度を整えることで、住民が自然にプロジェクトに関われる仕組みを構想。さらに尾道市立大学と連携し、学生や若手アーティストを誘致することで、学びと創作が交差する場をつくろうとしている。
制作の過程を共有することで、住民が自分たちの暮らす場所を価値ある場所として再発見する。アートを通じて、シビックプライドを育てる試みが、具体的な形を帯びてきた。
島の中に、学びの拠点を——二宮さんの提案

二宮さんのチームが提示したのは、SOIL Workを拠点とした学習支援ハブの取り組みだ。進学意識の高い家庭が島外へ流出している現状に対し、島の中でも高度な学びや体験が得られる場所をつくることを目的としている。
対象は小学生・中学生。基礎学力の底上げに加え、単なる塾にとどまらない体験型の学びを組み合わせる点が特徴だ。週4日開かれる拠点にはスタッフが常駐し、2月上旬のプレオープン、3月上旬には大学生スタッフの参加も予定されている。
進学のために島外へ出ること自体を否定するのではなく、外に出る前に「島の良さ」や「つながり」を深く刻む。将来的に戻ってきたり、何らかの形で関わり続けたりするためのアイデンティティを育てる場としての可能性が語られた。
学びと暮らしを往復する——内藤さんのデュアルスクール構想

内藤さんのチームが実践しようとしているのは、中国地方で初めての試みとなるデュアルスクールだ。都市部の子どもが一定期間、地域の学校に通う仕組みを通して、観光のオフシーズン対策と関係人口の創出を同時に目指す。
実施時期は12月から1月。大人は柑橘農家の収穫・出荷を手伝い、子どもたちは商店街での職業体験など、瀬戸田ならではの教育プログラムに参加する。4〜5月にはモニター実施、6月にプレス発表、9月まで本番の申し込み期間を設けるという具体的なスケジュールも共有された。
実現に向けては、滞在の仕組みづくりやPRといった実務的な課題も多い。それでも、教育と観光、暮らしを横断する構想として、参加者から多くの意見が交わされた。

4つの事業はそれぞれ異なるアプローチをとりながらも、共通していたのは「この島に合った学びのかたちを、どう育てていくのか」という問いだった。瀬戸田の中に点在する小さな芽が、少しずつ輪郭を持ちはじめた、そんな時間だった。
2月1日(日)14:00〜には、これまでの取り組みをまとめる最終発表会が、ベル・カントホールを会場に開催される。当日は、各事業のプレゼンテーションに加え、構想を「考える段階」から「実装する段階」へと進めていくための宣言が行われる予定だ。
この発表会は、事前の参加や関係性を問わず、誰でも気軽に参加できる場として開かれる。地域の人はもちろん、教育やまちづくりに関心のある人、少し話を聞いてみたいという人も歓迎だ。








