瀬戸田の可能性が輪郭を見せはじめる

2025年11月30日(日)、瀬戸田市民会館で「しおまちとワークショップ きょういく編」の第2回が開かれた。会場には、島のこれからを自分ごととして考えたい事業立案者と参加者たちが集まり、ほどよい緊張とわくわくが同居するあたたかな空気が漂っていた。

この日のプログラムは、前半がアドバイザーによる講演、後半は立案者の事業プランを参加者と一緒にワークショップ形式で磨き上げていく二部構成。

第2回のアドバイザーとして登壇したのは、2025年4月に開学したオンライン大学「ZEN大学」で活動開発部長を務める出雲路敬行さん。オンライン教育の最前線で挑戦を続ける出雲路さんが語ったのは、「教育と地域がどう結びついていくのか」、そして「瀬戸田という場所がどんな未来を育てられるのか」というテーマだ。

島に眠る可能性にそっと光をあてるような、示唆に富んだ講演となった。

すべての人に大学進学の機会を。
ZEN大学の挑戦

経済的な事情や、住む場所の制約。そうした現実によって「大学で学びたい」と思っても、その選択肢を持てない人がいる。学ぶ意志があっても、外的要因がその一歩を阻んでしまう。いまの日本には、そんな不均衡が確かに存在している。

ZEN大学は、その前提を少しずつほぐそうとしている存在だ。「すべての人に大学進学の機会を提供する」という理念は、年間38万円という授業料設定や、通学を必要としないオンデマンド型の学びの仕組みに表れている。経済的負担や地理的制約、時間の制約といった、これまであきらめる理由になってきた障壁を丁寧に取り除き、学びの入り口をひらいていく。

学部は「知能情報社会学部」のひとつ。AI時代に求められる幅広いジェネラリスト力を育てるため、複数の領域を横断して学べるよう設計されている。選べる科目は全279科目。心理学からデータサイエンス、マンガの企画論、マーケティング、宇宙論まで、多様な学びがひとつの学部に収まっている点が、ZEN大学の大きな特徴である。

SlackやNotion、Zoom、Google Workspace、Adobe Creative Cloud、Python、Javaといったデジタルツールを日常的に扱いながら学ぶ点も印象的である。学習のために特別に使い方を覚えるのではなく、学びのプロセスそのものの中で自然に身につく仕掛けだ。社会に出て即戦力となるデジタルスキルが、生活の延長線上で獲得できるよう設計されている。

さらに、オンラインであっても学生が孤立しないよう、クラス・コーチ(CC)、アカデミック・アドバイザー(AA)、キャリア・アドバイザー(CA)の3人のアドバイザーが伴走し、学習から進路形成までを支える体制が整えられている点も心強い。

まちを舞台に学びが深まる、
新しい大学の姿

出雲路氏が講演で繰り返し語ったのは、「オンラインだからこそ、リアルな経験が欠かせない」という視点である。

知識は画面の向こうだけで完結しない。地域に出て、手を動かし、人と関わり、気づきを持ち帰る。その往復の中で、学生は社会に触れることに慣れ、関心を持ち、自分にもできることがあるという実感を育てていく。

ZEN大学が描く成長の姿は、大学から与えられる環境で学び始めた学生が、活動を通して自己効力感を得ていき、やがては自ら社会に働きかける側へと移っていくプロセスである。受け身の学習から一歩踏み出し、自ら環境をつくり出す存在へと変わっていく。その流れは、課外プログラムを軸に社会とつながる循環によって支えられている。

プログラムが育む力として挙げられたのが、感情と向き合う力、創造的に考える力、協働する力、課題から価値を生み出す力という4つである。いずれも教室だけでは身につけにくい、生きるための実践的なスキルであり、地域での経験を通じて体感的に獲得されていくものだ。

講演の最後に、話題は瀬戸田とのつながりへと移った。

すでに連携している地域では、課外プログラムをきっかけに、学生が移住や就職へとつながった例もあるという。オンラインで学びながら、1ヶ月間まちに滞在し、人と出会い、対話し、実際に動いてみる。そうした「オンライン」と「リアル」の往復が、学生に未来のキャリアを具体的に想像させ、次の学びへとつながる循環を生み出している。

キャンパスという建物を持たないZEN大学だからこそ、まちそのものがキャンパスになり得る。瀬戸田がその舞台となる未来は、遠い話ではないと、自然に思わせるものだった。

学びと地域が交わる、
その続きを描く

ワークショップの後半では、4つの事業ごとに分かれて議論が進められた(詳しくはこちらから)。

出雲路さんの講演で得た視点が追い風となり、どのグループでも課題やターゲット像がより具体的な輪郭を帯びはじめた。4つの事業タネはそれぞれ異なるテーマを扱いながらも、瀬戸田という土地に根ざした可能性を見つめ、掘り起こそうとする姿勢は共通していた。

奥本さんのチームでは、島に移住してくる家庭の住環境づくりや、大人を含めた学びの支援、大学との連携の可能性が検討された。

田中さんのチームでは、「瀬戸田らしいアートとは何か」を起点に、アーティストが帰って来られる場所と感じられる関係づくりが模索された。

二宮さんのチームは、計算や暗記にとどまらない本質的な学びに寄り添うため、まずは子どもや親御さんの本音に耳を傾ける必要性が共有された。

内藤さんのチームでは、教育者への刺激、観光閑散期の活用、レモンを活かした体験など瀬戸田ならではの価値が挙がる一方で、滞在の仕組みやPRといった実務的な課題も浮かび上がった。

視点は違っても、どれも「この島に合った未来の形をどう育てていくか?」というひとつの問いへとつながっていく。地域の中に眠る可能性を拾い上げ、次の一歩へつなぐための濃密な時間だったと言える。

 

第3回の「しおまちとワークショップ きょういく編」は、2025年12月21日(日)14:00〜17:00、瀬戸田市民会館にて開催予定(※途中参加・退出も可)。地域と学びのつながりが、ここからどのように広がっていくのか。連続する対話の先に、静かだけれど確かな変化が芽生えつつある。